●「ある朝、起きたら母がいなくなっていた」
「北海道で生まれた」いう松田博さん(仮名・20歳)は、本籍が見当たらない。
松田さんが現れたのは年の瀬も押し詰まった12月25日。「所持金500円で、住むところも食品もない」と現れた。年末なので生活保護の申請も役所が休みになるのでできず、年明けまで緊急措置としてフードバンクの倉庫に泊めることにした。
2年前に母が失踪した。「ある朝起きたら母がいなかった」と。大学受験落ちて地元(神戸)でバイトしていた6月だった。それから今日まで住み込みの飲食店などを点々としていた。自分を証明するものがないから、ちゃんとしたところに就職できなかったらしい。
●障害の母と2人暮らし。頻繁な転居
幼少のころから身体障害の母との二人暮らし。高校を卒業するまで数年ごとに北海道、関西、四国など全国を点々と引っ越ししていたという。転居の理由はわからない。母との暮らしは困窮しており何らかの形で福祉サービスは受けていたようだ。しかし頻繁な転居のせいで彼の最後に記録をした住所がわからなくなってしまった。
年始に生活保護も申請したが住民票・本籍がどこにあるかわからないので受理されない。卒業したと言っていた高校も、本人や支援者が調べても在籍記録が全くないことが判明した。当初は時間をかければ彼の出生地や最後に登録した住所も判明すると思って、若者自立支援のNPOの尽力で、ホテルの住み込みの仕事に就いたが、2年たった今でも彼を証明するものが何一つ出てこない。名前さえ本当なのか定かではないのだ。見た目も言葉も価値観も確かに日本人の普通の若者なのだが、ここまで本人の存在を証明するものが何もないと日本人である国籍の証明もできない状態だ。
●不運な若者
松田さんの「出生届けが出されていない」可能性が高い。過去の記憶も曖昧なところが多くあり、心に受けた傷が過去を消し去ってしまったのかも知れない。現在働いている職場ではとてもまじめに働いているので、基本的には普通の若者の範疇に入っているのだが…。
国籍や住所を確認できないと、預金通帳も行政サービスも納税等の権利や義務も果たせない。これから彼の同意を得て戸籍、国籍の取得から彼の主権を時間をかけて取り戻すことが必要になる。(のぼさん)