フードバンクの周辺⑨ 判断できないお母さん

写真と文は関係ありません
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ご近所さんのおせっかいに救われる

「今月中にアパートを出なければならない…」

 近所の方が心配して声をかけて事態が発覚した。SOSが出せないでいた40代の母親は、2人の障害を持った子供とひっそりと暮らしていた。生活保護を受給しながらパートで働いていたが体調を崩して退職した。月末まであと5日だった。

 まずは早急にアパート探し。ネットや知り合いに聞いて物件を探した。だが当の本人は焦った様子がない。よくよく聞くと5か月前に退去の通知は受けていたようだが動き出せないでいた。身内とも絶縁状態で相談できる人もいなかった。焦ってないように見えるのは、実は「目の前の問題の解決方法が考えられない」からだった。放心状態、お任せ状態だったのだ。

 

引っ越しできなかった理由

 引越し先の条件は「娘の通う作業所から遠くない所」。猫を飼っていたので”ペットOK”を探すが見つからない。猫を手放さざるを得なくなった。

 引越しの都合上、家の中を見せてもらった。渋々ながら見せてくれた部屋は十数匹の猫に占領され、うす暗い部屋は猫の毛と臭気が充満していた。

 引越しに二の足を踏んでいた理由がわかった。子供、猫、片付け、アパート探しと、許容量を超えた問題があり、窮地に追い込まれていたのだった。

 「一緒に新しい生活をスタートさせましょうね」と言うと、現状から抜け出すことができずに不安な中にいた母親の目が潤んだ。

 

生活を取り戻すためには

 猫にはかわいそうだが同居はできない。物件がないことも理由だが、暮らしを立て直すのが先決だ。ご飯を炊いて食べる、風呂に入る、ゴミはゴミ箱に捨てるなど普通の暮らしを習慣づける必要がある。あのアパートには米も調味料もなかった。冷蔵庫もなくスーパーの総菜を食べていたのだろう。

 早急に猫の引きとり手を探した。

 

おせっかい(ボランティア)総動員!

 「大家側の都合」での引越し(立ち退き)では、転居費用が生活保護費から支給される。だが、この他にガス代の未払いやガス業者への保証金などが必要だった。社協の貸し付けは生活保護受給者にはできなかった。市役所でも使えるサービスはなかった。しかし引越しにはお金が必要だ。関わった人たちからお金を集めて貸した。家財道具はほとんどない。布団は処分するしかない。必要な家財は知り合いに声をかけて集めた。冷蔵庫、食器棚、掃除機、洗濯機…。仲間から軽トラを借り、人手も集めた。

 

多くの人の手で新たな生活のスタート

 引越し当日、猫との最後の別れをして荷物を運び出す。業者に頼む時間もなく、ボランティアで引越し。近所のおばさんも手伝ってくれ新居に引越しができた。知り合いから集めた寝具や家具で生活はできる状況になった。

 しかし、金銭管理は苦手なようで、計画的な買い物ができずに月末になるとお金が底をついてしまう生活。無駄な出費を控えることが必要だ。頼れるご近所もいないこの家族に寄り添っていく必要がある。フードバンクで届けたお米を早速、娘さんがとぐ。炊きあがる湯気の向こうで家族の生活が始まった。

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