9/6 フードバンクの周辺⑧ 住所が無くなってしまった男

写真はイメージです
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最初の落とし穴と岐路

 林田さん(仮名)は学校を卒業して就職した。実家から会社に通勤をするというよくある話なのだが、彼の不幸の入り口は父親が早く死去したことから始まった。次男だったので兄が実家の世帯主になった。すでに兄は結婚していて家庭を持っていた。だから、ここで彼が実家を出てアパート暮しでもすれば良かったのだが、兄の家族と同居することを選んでしまった。

 第2、第3の落とし穴

 次の不幸は、5年前にそれまで務めていた会社が到産してたことだ。彼が次に就いた職場は非正規という立場の仕事だった。やがて頼みの兄も若くして死去した。さすがに兄嫁とはいえ基本的には他人であるので同居を継続できなくなり家を出ることになった。

 普通であればアパート等を賃貸して生活をするのだが、健康ランドに泊まる暮らしを選んだ。食事する施設もそろっているし、なにしろ利用客が多くいるので1人で生活するよりは寂しくない。そんなところが、彼をそのような生活を選択させたのかも知れない。

第4の落とし穴、住所が消滅

 そんな中途半端な生活が彼を窮地に陥れることになる。勤めている会社が今年になって従業員の住所確認を行なった。自分の住所は実家にあるものと思っていたが、居住実積がないのでいつの間にか住所が抹消され、住所不定になっていたのだった。会社から「住所不定者は雇うことができない」と通告され住所を取得するために1か月間の猶予をもらった。しかし、彼は住所を約束の期間までに住居を確保することができないまま解雇されてしまった。

そして路上生活

 お金もなくなり、2か月ぐらいは路上生活を送っていたが、その生活にも限界を感じるようになっていた。そのような彼に通りすがりの人が、フードバンク宇都宮への地図を描いて、「ここを訪ねなさい」とアドバイスしてくれたのだった。彼の唯一の幸運は、路上生活という他人から目で見て困っている人だとわかるスタイルで生活していたことだった。フードバンクに助けを求めた彼の選択肢は、生活保護を受けて生活するしかなかった。フードバンクで食事を出して、事務所に3日ほど泊まってもらっている間に住居を準備し、生活保護を受けられる支援を行った。現在は疲弊しきった体を元に戻し、次の人生のことを考えてもらうようにしている。

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