フードバンクの周辺⑤ 人が変わる時

年の瀬のSOS

年末、19歳の独り暮らしの女性からのSOSが入る。家賃、電気、ガス料金を滞納し、食べるものがない。風呂にも1か月以上入っていないという。年末の寒い時期に、ストーブの灯油ももちろんない。しかも女性は弱視で人間不信でなかなか人と会うことが難しくアパートのドアも開けてくれない。男性への恐怖心があり女性としか会えない。

心が病み、人との接触が切れる

 女性のボランティアが食べ物を持って話を聞きに訪問する。人と接するのが苦手ながらも、今までの経過を話してくれた。義父からの性的虐待を受け、心に傷を負っていた。母親への思いも複雑に絡み合う。悪い道へ迷い込み、警察のお世話になり更生施設に入っていた。施設を出てから、実家にも帰れず、独り暮らしは思うようにいかなかった。家族にも頼れず、誰とも会えずに精神的にも追い込まれていった。唯一の心の救いは、猫と犬のペットたちだった。

応援する思いが伝わること

 年末、早急に生活保護の申請に同行して、すばやく受給が決まった。家賃滞納もあり、分割で返済することを約束し、そのまま住み続けられるよう大家さんに一緒にお願いする。だが、独りでの歩行は可能だが弱視なので外出には支障がある。生活保護費の受け取りに市役所へも同行した。眼の治療も必要だ。通院にも同行する。1月の寒波来襲の際には「灯油がない」とメールが入れば、ポリタンクで灯油を買って届ける。「ゴミが溜まって…」10袋程のゴミを処分する。様々なSOSが入り、それらに対処することで、人間不信だった彼女も少しづつ心の扉を開いてきた。男性不信だった彼女も、男性の福祉担当者とも連絡をとることができるようになっていった。

「あなたの人生につきあうよ」という他人の存在

 年の瀬のSOS以来、3か月が過ぎ、メールで応援要請が入るまでの関係になっていった。困った時に”人に頼む”ことができるようになった。大きな進歩だ。しかし、眼科や皮膚科の通院も停滞気味だし、こちらからの提案はなかなか受け入れられない。彼女なりの信念や迷いがあるからなのだろう。対人関係で支障が多いけれども丁寧によりそい続けることで、人を信頼できるようになってきた。フードバンクは、個別の人生の応援の窓口なのだ。

 ひとは、福祉の制度があるだけでは元気にならない。無機的な制度に「あなたのことを応援するよ」というボランタリーな気持ちや行為がプラスされて、元気になれる。

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